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そのままの関係で数日が過ぎたある日、食堂に一人でいた安治を見つけてたま子がやってきた。「どうだ?」と下卑た口調で聞く。
「まあまあだよ」
と安治はやり過ごそうとしたのだけれど、たま子は許さなかった。
「天女のごとき姫を娶っておいて、まあまあとは聞き捨てならんな。毎日が天上の宴であろう」
「――料理はうまいよ。掃除も完璧にしてくれる」
「睦み事も至高であろう」
「まだしてないよ」
しかたなく白状する。たま子はもののけを見るような顔をした。
「どういう了見だ?」
「どうって……」
「何が気に入らぬ」
問われた瞬間、「性別」と即答しかけた。考えないようにはしているが、心のどこかに引っかかっているのは間違いない。いくら見かけは美女でも、脱がせたらあるのだ、安治と同じものが。
そう答えることもできず、口では「べつに……」と嘯く。ほかの抗弁をする。
「だってさ……向こうだって、好きで来たわけじゃないじゃん。まだ会って間がないし、そんな雰囲気じゃないもん」
たま子は眉間に皺を寄せた。
「馬鹿か?」
「……なんで」
「同居を引き受けた時点で、了承しているに決まってるだろ」
「それは、仕事としてでしょ。本当は嫌かもしれない……俺が相手じゃ」
たま子は安治の顔と体をじろじろ眺めた。それから軽い口調で、
「そこまでじゃないだろ」
と慰めを言った。
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