4人が本棚に入れています
本棚に追加
顔を離すと、うっとりした恋人の表情で見つめてくる。この顔も何人に見せたのか。自分はそのなかの一人にすぎない。
「……今までに何人と付き合ったの?」
口に出てから驚いたのは安治自身だ。この場面で雰囲気を壊すようなことを言うつもりはなかったのに。
おりょうはきょとんとして首を傾げた。
「お付き合いしたことはありません」
安治は思わず噴き出す。嘘にしてはあからさますぎる。この好色な体でバージンだと言うつもりか。
「じゃあ、何人としたことがあるの?」
軽い苛立ちを覚えて問いを重ねる。おりょうはちょっと考えてから、ごく素直に答えた。
「延べ人数ですと、千人くらいです。最後までしたのはそのうちの三割くらい……口と手でご奉仕するのが基本のお店でしたから」
恥じる風もなく、職歴を語る口ぶりでそう言った。安治はその堂々とした態度に今度は感銘を受けた。
「……付き合ったことないの?」
「はい。そういうきっかけがありませんでした」
「口説かれることはいっぱいあったでしょ?」
「そういう仕事ですから……どこまでが本気か」
「おりょうちゃんが気に入った人はいないの?」
「特に」
あっけらかんと答える。恋人としかしたことのない安治は恐れ入るばかりだ。
最初のコメントを投稿しよう!