いざ

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顔を離すと、うっとりした恋人の表情で見つめてくる。この顔も何人に見せたのか。自分はそのなかの一人にすぎない。 「……今までに何人と付き合ったの?」 口に出てから驚いたのは安治自身だ。この場面で雰囲気を壊すようなことを言うつもりはなかったのに。 おりょうはきょとんとして首を傾げた。 「お付き合いしたことはありません」 安治は思わず噴き出す。嘘にしてはあからさますぎる。この好色な体でバージンだと言うつもりか。 「じゃあ、何人としたことがあるの?」 軽い苛立ちを覚えて問いを重ねる。おりょうはちょっと考えてから、ごく素直に答えた。 「延べ人数ですと、千人くらいです。最後までしたのはそのうちの三割くらい……口と手でご奉仕するのが基本のお店でしたから」 恥じる風もなく、職歴を語る口ぶりでそう言った。安治はその堂々とした態度に今度は感銘を受けた。 「……付き合ったことないの?」 「はい。そういうきっかけがありませんでした」 「口説かれることはいっぱいあったでしょ?」 「そういう仕事ですから……どこまでが本気か」 「おりょうちゃんが気に入った人はいないの?」 「特に」 あっけらかんと答える。恋人としかしたことのない安治は恐れ入るばかりだ。
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