いざ

6/19
前へ
/59ページ
次へ
「そっか。じゃあ、俺が最初の恋人になるわけだ」 「え?」 何気ない呟きに大げさに反応する。急に戸惑いと恥じらいめいた表情を浮かべるや、どこか不貞腐れて、 「私は体のお世話をするだけです」 と言い放つ。 そのあとはややご機嫌斜めだった。キスをしても胸を触っても喜んでくれない。反対に居心地が悪そうに目線を逸らす。それは嫌がっているというよりも恥じらいのしぐさに見えた。 「とっていい?」 腰を覆うタオルを触りながら聞くと、 「ダメです」 と即答された。 「あとは自分で洗うので、布団で待っていてください」 「舐めてあげようと思ってたのに」 おりょうは目のふちを赤くして睨んだ。「いやらしいことを言わないで」と言っているようだ。 急にふつうの女の子になったな、と思いつつ、安治は風呂場を出た。 三十分ほども経ってからバスローブ姿で、冷たいミネラルウォーターをお盆に載せてやってきた。 先ほどの態度を取り繕うように体を寄せて「どうぞ」とグラスを渡してくる。腕に抱きつき指を絡ませながら色っぽく「舐めてくれるんですか?」と囁く。 「嬉しい」 心境の変化には触れず、安治はおりょうの頭を抱いた。しっとりして温かい。
/59ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加