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暗い道に入りそうな僕を止めたのは、兄ちゃんの木だった。
あのあったかい とくり とした木は兄ちゃんだったんだ。
あの美味しい水は兄ちゃんがくれたんだ。
やっと座らせてもらって横の穴を見たら、そんなに深い穴じゃなかった。
「もうだまって どこかにいかないよ 兄ちゃんの言うこと、きくよ」
「ああ、そうしてろ。な? もう兄ちゃんの前から勝手に消えるんじゃない」
兄ちゃん、それ、誰に言ってるの? 僕? お母さん?
うん。分かった。僕は勝手になんか消えないよ。僕はずっと兄ちゃんのそばにいるんだ。ずぅっと。
帰りは兄ちゃんの背中の上で、僕はすっかり眠ってしまって、とくり とくり っていう兄ちゃんの音を夢の中で聞いていた。
学校には一度も行かなかった。夏休みが終わる前にまた引っ越したから。
車に乗った兄ちゃんは黙ってのり塩のポテチを食べていた。
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