4 忘れたくない普通の日

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 無情にも予想は外れ、鍵は閉まっていた。やはりフロントもグルということか。逃げ場がない。万事休すというやつだ。 「おら、戻れ」  シャツの後ろ襟を掴まれ、ずるりと後ろに引き摺られる。首がきつく締まっても未練がましくドアノブから手を離せないでいたら――突然、扉が開いた。 「えっ?」  おかげで後ろ方向への力を殺せず、見張り役と一緒に盛大に転んだ。和真は見張り役がクッションになったが、見張り役は思いきり尾てい骨を打ったようで低く呻いている。  改めて前方を見れば、この時化たラブホテルにはおよそ似合わない、瑠珂が立っていた。オーバーサイズのTシャツに上半身を泳がせ、合皮のストレッチパンツで脚線美を強調している。 「ナオ。抜け駆けはしない約束だよね」  全員が見惚れる間に、瑠珂の鋭い声が響いた。途端に部屋の空気が張り詰める。 (約束……?) 「でも、こいつから誘ってき」 「ばらしちゃっていいの?」  南央斗の言い分はまっとうな事実なのだが、瑠珂がさらに畳み掛けた。約束とやらに加えて弱みも握っているのか。 「本当は二じゅ」 「わかったよ!」  南央斗が大声で喚いた。よほど沽券に関わるのだろう、和真がお預けを食らわせたときより悔しげに顔を歪ませ、服を直す。 「萎えた」     
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