4 忘れたくない普通の日

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「確かにそういう問題じゃないな」  少しずつ知って、知らせて、不安や罪悪感は二人で抱き込んで解体してしまう。オメガとして覚醒した直後は絶望さえ感じたが、もし覚醒しないままだったら瑠珂とこんなふうには話せなかっただろう。彼の恐怖や決意、弱さや潔さにも、きっと気づかないままだった。そういう意味では覚醒してよかったと思えるようになってきた。  ただ、番についての結論はまだ出していない。  後輩たちがそれぞれインターンの準備に取り組んだり、論文のための実験を始めたりして、六月に入って以降忙しさが加速した。  小笠原は延々と学生の面倒を見はしない。指導の時間はしっかり取っているが、有限だと意識させることで、作業の質を高めさせようとしているのだ。  今日もまだ陽の沈みきらないうちに身支度を済ませていた。和真は後輩の質問受付係として残ろうかと思っていたところ、直々に声が掛かる。 「伊崎。この後時間あるか?」 「はい」 「では付き合え」  颯爽と歩き出した小笠原に、慌ててついていく。確実に美味しいものをタダで食べさせてもらえるのはありがたい。ただし指名された理由によるが。     
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