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小学校高学年くらいの女の子と低学年くらいの男の子が、僅かな時間差で小笠原の懐に飛び込む。生地は同じでデザインの違うオールインワンを着ているのが愛くるしい。「ただいま」と微笑む小笠原の顔は、和真たち生徒に見せるのとは少し違っていた。具体的にどこが、と言うのは難しいのだが。
「私の生徒を連れてきたよ。伊崎だ」
「伊崎」
「いさき!」
「こんばんは、はじめまして」
小笠原が呼び捨てしたために、子どもたちにも呼び捨てられる。昔から子どもに警戒されない和真だが、二人とも小笠原に似て物怖じしな過ぎて、苦笑いするしかない。
「角の部屋を使うから、適当に食べ物を持ってくるようパパにお願いしてくれ」
「はーい!」
おそらく厨房のほうへと駆け戻っていく。最初、何だかホームパーティーへ来たみたいだと感じた理由がわかった。
「こんなに素敵なお家があるのに、銀座で飲むのもったいないんじゃありません?」
「いや、夫の店であって家ではないよ。見ての通り席が少ないから、そう入り浸れないんだ」
確かにビジネス面ではデメリットだろう。でも一家で過ごせるのはそれを上回るメリットだと思うのだが、実家にちっとも帰らない和真が言えた義理ではないので黙っておく。
「お子さんたちはおいくつになられたんですか」
「それは食べながら話そう」
小笠原は、和真が微妙に話題を変えたことに気づいたのかどうか、頑丈な鞄を持ち上げて突き当たりを左に曲がる。ガラス扉の向こうに四人掛けのテーブルが置かれた個室があった。
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