4 忘れたくない普通の日

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 小笠原は学外では基本、研究の話をしない。たとえば最近読んだ本とか、以前食べて美味しかったものの話をよくした。おそらく和真は、ハーブや革小物といった詳しい分野があるため話し相手として重宝されている。 「さっきの子どもたちだけどね」  サラダも前菜もとっくに空にして、看板メニューのひとつだというコケモモソース掛けけミートボールを頬張り始めた頃、不意に小笠原が切り出した。 「実は一人目は私が、二人目は夫が産んだんだ。上が十歳、下が六歳になる。病院関係者と親しい友人以外は知らない話だ」  そんな重要な話を前置きなしで――彼女なりにはあったのかもしれないが――明かされ、和真は咀嚼を続けられなくなってしまった。でも口の中のものを飲み込まねば感想も言えない。  彼女の配偶者がオメガだというのは既に聞いていた。さらに妊娠出産まで経ていたとは。そう言えば六年前、ごく短い産休で復帰して鉄人と言われていた。パートナーのケアのための産休だったのか。  クラフトビールで、口の中身を何とか喉へと流し込む。 「どうして、僕にその話を」 「うん? 君が本調子でないと、研究室の運営が滞るからな。相談相手は近くにいると伝えておこうと」  小笠原は結構な度数らしいジャガイモの酒をストレートで飲みながら、鷹揚に微笑んだ。嬉しいような嬉しくないようなエールだが、ありがたく受け取る。     
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