4 忘れたくない普通の日

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「……正直、妊娠とか出産まではまだ全然考えられていないんです」 「トータルで考えると再来年以降がベターだろう」  あまりに合理的で一足飛びな助言だ。 「番になるかどうかも、もし瑠珂に運命のオメガがいたらって考えてしまって」 「いたとして、そいつがまだ羽鳥に出会いもせずにもたもたしてるんなら、君が運命の番になってしまえばいい。私はそうしたよ」 「え――?」 「夫が私の運命のオメガだったかはわからない。でも、私は夫を運命のオメガにした。十一年かけてね」  小笠原は女王然とした表情を浮かべたが、それも扉にふと目を遣るや消えた。見れば、スモークグレーのガラスに子どもたちが額を張りつけているではないか。どうやら構ってもらう順番待ちらしい。 「済まない。少し子守をしてくる。一人酒にならないよう代役を手配しよう」 「お構いなく」  引き締まっているのに優美な曲線を描く小笠原の背中を見送りながら、彼女の話を聞けてよかったと思った。小笠原ほどの人にあれだけ言わせたパートナーを見てみたい気もしたが、きっと小笠原にとって唯一なのであり、和真にはその魅力を理解しきれないだろう。  ちょうど一人の時間ができたので、改めて考えよう――としたのだが、ほんの一、二分で扉が開く。     
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