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これだけたくさんのことをしてくれてなお、まったく恩着せがましくなく笑う洋佑は、やはり和真にとって眩しく、誇らしい存在だ。同時に、それが瑠珂に向かう感情とは種類が違うのも確かだった。
結局、洋佑が和真と話す間に小笠原が芙優を手懐けており、四人で飲んだ。小笠原の夫の手料理はどれも美味しく、オメガの身体でもしっかりサービス業を営む様子にひそかに勇気をもらった。
こんなに楽しく飲んだのはいつぶりだろう。小笠原が呼んでくれたタクシーを児童公園の前で降り、ふわふわとした気分のまま瑠珂に電話した。
『なぁに』
「瑠珂? 今、児童公園から掛けてるんだけど、月がきれい」
『ふうん。ふふ。まぁくん楽しそうだね』
夜の電話は声を聞くことが主な目的で、話の内容はあまりない。今日も思いついた順に話していく。
「そのとき、ボスの娘さんが――」
『あ、待って。充電コードつなぎたい』
「うん」
しばらくして、不意に会話が途切れた。スマホを耳に当てたままベンチに背を預け、夜空を仰ぐ。名も知らぬ星が瞬いた瞬間、とっておきの話を思いついた。
『いいよ』
「あのさ。来月二週目の授業ない日、空けておいてくれるか?」
電話口に戻ってきた瑠珂に、早速提案する。中断前と話がつながっていないが、瑠珂もすぐ察してくれた。
『わかった。今年は平日だね』
七月の二週目。付き合い始めて三年目になる記念日がやってくる。
『何するの?』
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