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1 忘れられない誕生日
瑠珂はいつも待ち合わせに遅れる。
だったら和真もゆっくり移動すればよいのだが、もし今日は時間通りに来ていたら、と思うと落ち着かない。結局今日も十分前には指定のダイニングカフェに到着して、合計十七分待っている。
待ち合わせの二分過ぎ、スマホのメッセージアプリに連絡があった。
――ごめんね、もうちょっとで着く。
――アブスト読んでるから別にいいよ。雨降りそうだから気をつけてな。
外は花冷えだ。和真は雨男の気がある。陽の沈んだ窓の向こうを気に掛けながら、ホットハーブティーに口をつけた。
(はぁ、温まる)
焦げ茶のセルフレーム眼鏡が曇ってしまったが、味わうために目を伏せたので問題ない。ローズヒップとカモミールのブレンドだ。このカフェは季節によってハーブティーブレンドの内容が変わるのと、余裕を持たせたテーブル配置が気に入っていた。
ただ、一日の大半を過ごす海皇大学から電車を乗り継いで一時間ほど掛かる。和真は情報系の研究室に所属しており、この春博士課程に進んだ。ここへ来る前に、修論の内容を踏まえて組んだプログラムを走らせておいた。
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