0章 神槍のリヒト

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0章 神槍のリヒト

活動人口5万人。この数値は空前の大ヒットとなったMMORPG「クロスブレイドクロニクル」のプレイヤー数である。インターネット環境と外付けコントローラー、またマイク付きヘッドホンさえあれば誰でも楽しめる手軽さとリアリティを追求したグラフィック、そして何よりもシンプルなのに奥深いやりこみ要素が多くのユーザーの心をつかんだのだ。今やテレビのコマーシャルでもその名を聞かない日はなく、日頃ネトゲに関わりのない人でも名前くらいは知っているだろう。 そんな話題の「クロスブレイドクロニクル」の舞台となっている世界、中世ヨーロッパの風情を色濃く映した、RPGの王道ともいえる町並みが広がっている「ニヒツアイン」は今日も活気に沸いている。否、一種異様めいたような焦燥感のようなものすら感じるほどだった。 何故なら、今日はゲーム内で行われている強敵モンスターの討伐クエスト最終日。ゲーム内に無数に存在する「カンパニー」と呼ばれるチームが、少しでもスコアを伸ばそうと躍起になっているのだった。 しかし、問題の人物はそこにはいない。 その町中の教会の地下にある「転移の魔法陣」。それを乗り継いだ先にある名もなき砂漠。雲一つない紺碧の蒼穹に、容赦なく照り付ける灼熱の太陽。激しい砂塵の波濤。サボテン一つ生えない荒涼たるその場所に、3つの人影が立っていた。それぞれが、白銀の鎧に白銀の槍を背負った金髪の男。黒衣に身を包み、黒い刃の長剣を背負った黒髪の男。白を基調にしたワンピース風の衣装に身を包んだ、杖を持つ緑の長髪の女。この三人組こそが、実は件のイベントのトップランカーなのだ。数多のプレイヤーが数十人で束になってかかっても敵わないと言われる強敵を、たった三人で仕留められるのだというのだ。そして、頭上に「Licht」と文字が浮かんでいる槍使いの男が不意に口を開いた。 「やっと今日でイベントも終わりか。これが終わったら、もう周回はしばらく良いなぁ」 ちなみに、コメントは先述したマイクを通して口にした言葉が音声認識され、ダイアログに文字としても残るという最先端の技術が用いられている。これも操作入力をしながらもコミュニケーションがとれるようにという、運営側の粋な計らいらしい。
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