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 雨粒を着けた植物たちが朝陽を受けて目映い光を放っていた。実に爽やかな朝だった。今日、再び出会うあの場所は、年を重ねた私の顔と同じように変化を重ね、同窓の私を見て、この朝の景色と同様な晴れやかな表情をして出迎えてくれるであろうか。寧ろ、それへの期待、希望そして再会できることの喜びが見るもの全てに反映されて輝かしく心に写し出されているのかもしれない。私はこの真相に対して、あれこれとこれ以上追求することを止め、あるがままに映る姿を素直に受け入れ、素直に喜ばしいものとして捉えるものとした。 「低気圧は消え、今日は朝から晴れ渡り、爽やかな一日となるでしょう」  ラジオから流れ出た音声が、強ち私一人の思い上がりではないことを証明してくれた。 「リスナーの皆さん、天気が雨であれ、曇りの日であれ、晴れた日は勿論、心の中はいつも穏やかに・・・」 「それではいつものように・・・」いつものようにいつもの聞き慣れた音楽が流れた。私は、こんなマイナーなラジオ番組を毎日聞いている。そしてそこから流れる音楽を聞きながら、爽やかな朝の光景を眺めつつ、生涯の中で数えるほどの最高の朝食にありつき、コーヒーを啜りながら、ゆっくりとした時間を過ごした。しかし、そうそう長々とのんびりしている暇はなかった。人生という時間が大方決められ、一日という時間は然り、昼の時間までも、目の前で輝いている朝陽の差す時間ははっきりと決められている。私は早々と食器を片付け、身支度をし、少し勿体振った気持ちを抱えながら、レースのカーテンを締め、美しい風景に別れを告げた。部屋を後にするとき、ふと後ろめたさのような気持ちが沸き起こり部屋の外へ向かおうとする私の足は止められ、後ろへと振り向いた。朝日を受けて色鮮やかに光っていたソファーに掛けた刺繍やテーブルクロスの光沢のある色合いは抜け落ち、ある一場面を切り取って描かれた静止画のようにまるで時間が止まっているかのように見えた。ただ動いているのは、時計の針とレースのカーテン越しに見えた鳥の羽ばたく姿だった。私は時計の下へ歩き、針の動きを止め、この部屋との暫しの別れを記した。ただ次に戻ってくるときには、この止められた時計の針の通りにまた、同じ時間に戻ってこれないことを分かりえながら。
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