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まわりより少し低くて細い、瀟洒という言葉がよく似合うややレトロなデザインのビル。蔦が壁一面に絡まっていないのが不思議なくらい。 無機質なコンクリートのビルが立ち並ぶ一角に、凛と建つその姿は、そのビルの歴史と商いの長さを無言で語っている。 商うものが文房具や画材だけあって小粋に飾られている、建物が細い分こぶりなショーウィンドー。 いまどき、自動ドアじゃないガラスの扉。 このビルの重ねたときを示す、金色がいい感じにくすんだ取っ手に力を込める。 見た目よりずっしりとした扉の内側に吊るされたカウベルから涼やかな音が降ってきた。 建物の見た目ほどは狭くないはずの店内なのに、とられた通路はせまく、品物がぎっしりと詰められた背の高い棚。 ちらっとみえるところだけでも、仕入れ担当者のこだわりがあふれているのがわかる。 レジカウンターの向こうにある階段の手すりから斜め上に向かって下げられた札には、【←文房具】の文字が独特のデザイン文字で踊る。
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