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確かにそうかもしれないが、仮にその人も合格していたとしても、見つけ出すのは難しそうだった。
受験会場からして、おそらく彼も理学部志望。だが、一年生の男子学生だけでも百人以上は在籍している。一人ひとりに声をかけてしらみつぶしに捜すにしても、どれだけ時間のかかることか。まして恩人の彼もわたしのことを覚えていなかったら、永遠に見つけ出すことはできない。
何より受験の日から一年近くが経過して、『新入生』という肩書きの輝きもすっかり鈍いものになっている。いまさら何を言い出しているのだ、と思う人もいるだろう。
入学したての頃のわたしは、キャンパスライフへの憧れと希望で胸が一杯だった。初めての一人暮らしに入学式、初めてのオリエンテーションや初めてのシラバス、初めてのサークル勧誘に初めての新歓コンパ等々に忙殺され、受験生だった日々はすっかり遠い過去となっていた。それはたぶん彼も同じだったはず。
――と加弥子に同意を求めたのだが、返答は外気温と同じくらいに冷たかった。
「そう考えることで、自分の薄情さをごまかそうとしているのね」
「加弥子ったらひどい言い草……」
半分以上は冗談で言っているとわかってはいるのだが、突っ込み体質である加弥子の言葉は、思いの外さっくりと痛いところを突く。
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