必勝の条件

15/32
前へ
/32ページ
次へ
 わたしは毛糸の白いマフラーを首にぐるぐると巻き、手袋をはめたままシャーペンを握っていた。隣や向かいに座る友人たちはコートも手袋も身に付けていないが、わたしは寒がりなのだ。エコだか節約だか知らないが学内の暖房は設定温度を低くしてあるので、じっとしていると寒い。そこで、こうして自力で暖を取っているわけである。 「それより、加弥子。有機化学概論のノート、持ってきてくれた?」  ここに集まっている中で、有機化学概論を受講しているのはわたしと加弥子の二人だけ。試験三日目の一限目が有機化学概論だ。わたしのノートは完璧ではなかったので、加弥子が来るのを首を長くして待っていたのである。 「持ってきてたわよ」  加弥子がバッグからノートを出した。 「でも、コピーするなら、もっと早くに言いなよ」 「ありがと」  加弥子のもっともな忠告とノートを貸してくれたことにお礼を言って、閲覧室の隅にあるコピー機へ向かった。  のんびり書き写す時間が惜しい、と思っている怠惰な学生はわたしだけではないようだ。三台あるコピー機には、どれも四人くらいずつ並んでいた。どこでもそれほど変わらないだろう、と右端のコピー機に並ぶ。わたしに順番が回ってくる頃にはさらに後ろに三人並んでいて、皆ノートやプリントを手にしていた。同類はたくさんいるようだ。     
/32ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加