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試験前の館内、特にコピー機周辺は、追い込まれた学生の陰鬱とした空気が溜まっているのだろうか。必要なページを開いてはコピーし、また次のページを探し求めるという作業をしている間ずっと、「早くしろ」という背後からの無言の圧力を感じていた。
気のせいかもしれなかったが気持ちは焦り、ページを繰ろうとする指先から、たびたび紙が逃げていく。手袋をはめたままというのもまずかった。しかし、手袋を外す暇があるなら早くコピーを取らなければ、と焦った頭は考えて、結局、余計に手間取った。
ようやくコピーを終えた頃には、肩をすぼめてマフラーの中に顎を埋めていた。悪気があったわけじゃないんですと心の中で謝りながら、順番待ちする学生たちの横をとぼとぼと通り過ぎる。
「高橋」
振り返ると、わたしが使っていたコピー機の最後尾に、見慣れた人の姿があった。
「寺島君、いたんだ」
「気付かなかったの? 高橋は鈍いな」
寺島君は苦笑する。この距離で知り合いに気が付かなかったのでは、弁解のしようがない。しかし、言われっぱなしも悔しいので、
「寺島君もノートのコピー? 授業中、寝てたんだ?」
少々意地悪く言ってみる。
「いや、寝てたのは俺のダチ。俺のノートを、そいつのためにコピーしに来たんだよ。時間がないって言うから」
寺島君は同期の中でトップクラスの成績なので、レポートなどで彼を頼る友人は少なくない。わたしと違い、試験前でも友人のために時間を割く余裕があるようだ。
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