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悔し紛れのつもりで言ったのに、自分の情けなさを知る結果となってしまった。
「それより、高橋。さっきから気になってたんだけど、なんで図書館の中で手袋してるの?」
寺島君が不思議そうにわたしを見下ろす。
「えーっと、それは寒いからであって」
わたしとしては、厚着をしていない寺島君の方が不思議だ。屋内はともかく、外は冬の冷たい風が吹いている。それなのに、図書館へ来たばかりらしい寺島君は、手袋もマフラーもなく、上着はダウンだが薄いジャケットだ。
「手袋したままでもコピーは取れると思ったんだけど……」
近くにはまだ順番待ちをしている学生がいるので、言い訳めいたことを口にする。わたしのせいで寺島君やほかの人たちをいたずらに待たせてしまったのだ。
寺島君は責めるつもりなんてないのだろう。だが、責められている気分になったのは否めない。彼を恨めしく思うのは単なる被害妄想だとわかっているのだが――。
「寒い? もしかして風邪?」寺島君が心配そうな顔をする。「大丈夫か?」
「へ? いや、風邪じゃないよ。全然元気。これは、単にわたしが寒がりだから」
友人たちにはよく苦笑されるので、寺島君の反応は意外だった。
「そっか。でも、気を付けろよ。明後日から後期試験が始まるんだし」
「うん、そだね」
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