必勝の条件

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 今日の一限目は有機化学概論で、開始時刻は九時半。  アパートから学校まで、自転車で十五分かかる。  あれほど出たくなかったこたつから慌てて這い出した。その時に腰をぶつけマグカップが倒れたが、中身は空だったので、そのままにして洗面所に駆け込んだ。  お湯を出す時間さえ惜しくて水で顔を洗う。しびれるほど水は冷たかったが、そのおかげでさらに目が覚めた。着替えを済ませ髪を適当にとかし、教科書やノートをかき集めてバッグに突っ込むと転がるようにして部屋を出た。  全力で自転車を飛ばせば、十分程度で学校に着くはずだ。  マフラーを寒風になびかせ、猛然とペダルをこぐさまはあまり人に見せられたものではなかった。しかし、遅刻すれば試験勉強をした甲斐がない。単位も取れない。  駐輪場に到着した時には、顔は冷気ではなく体温上昇で赤くなっていて、吐く息は白いというのにマフラーを巻いた首にはうっすらと汗がにじんでいた。     
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