必勝の条件

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「ありがと。でも、大丈夫」  加弥子の申し出は嬉しいが、わたしの失敗に彼女を巻き込むわけにはいかなかった。  駐輪場と教室を往復するだけなら五分程度。だが、落としたかもしれない学生証を探さなければならないから、五分では済まないだろう。  誰か親切な人が学生証を拾ってくれたとしたら、さらに時間がかかる。落とし物は学務課に届けることになっているが、学務課があるのは六号館だ。そこに学生証が届いていないか確認して、試験開始までに戻ってくるのは難しそうだ。 「すぐ戻るから」  心配そうな顔の加弥子を残し、教室を飛び出した。  また転んではいけないので、足元に気を付けながら階段を駆け下りて、一階にたどり着く。ヒールのあるブーツでの全力疾走に不安がないわけではなかったが、注意すれば問題ないだろうと駆け出したところで、校舎に入ってくる寺島君を見つけた。  そういえば寺島君も有機化学概論を受講していた。ということは、わたしと加弥子の間にあった空席の主は寺島君か。彼に限って寝坊はなさそうで、実際慌てた様子もない。  のんきに寺島君の観察をしている場合ではない。挨拶もおざなりに駐輪場へ行こうとしたら、寺島君が驚いたように声を上げる。     
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