必勝の条件

28/32
前へ
/32ページ
次へ
「寺島君」  階段を下りようとしていた彼に声をかける。少し離れたところから大声で呼んだので何人か振り返ったが、皆すぐに前へ向き直る。寺島君だけが立ち止まった。 「高橋たちは次も試験なんだろ。行かなくていいの?」  通行人の邪魔にならないよう廊下の隅に寄る。  行かなくていいわけはないのだが、その前にどうしても確かめておきたいことがあるのだ。 「寺島君ってもしかして、入試の時にわたしの受験票を拾ってくれた?」  付け足すならば、その後にお菓子もくれた?  寺島君は困ったような顔で笑った。 「やっと気が付いたのか」 「やっぱり」  あれは寺島君だったのだ。思わぬところで思わぬ時に恩人が見つかったので、嬉しくなって自然と顔がほころぶ。 「どうして今まで何も言ってくれなかったの?」 「どうしてって……高橋が俺のことを覚えてなさそうだったからだよ」  寺島君の言葉に、わたしはぐうの音も出なかった。       ○ 「初めまして。高橋晶です」  入学後のオリエンテーションで、わたしは寺島君にそう自己紹介した、らしい。これまた覚えていないのだが。     
/32ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加