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スケジュール帳は大きな靴たちの隙間に着地した。これはまずい。わたしの手の圏外だ。ただでさえ身長の低いわたしがこの場でしゃがめば、蹴っ飛ばされてしまうかもしれない。しかし、スケジュール帳が靴底の餌食となる前に回収しなくては。
一生懸命に手を伸ばした時、別の手が伸びてきてスケジュール帳を拾い上げた。顔を上げると、知った顔がわたしを見下ろしていた。
「これ、高橋の?」
同じ学科の寺島君だった。「ほら」とわたしに差し出したので、急いで立ち上がる。
「ありがとう、拾ってくれて」
「どういたしまして」
寺島君はにっと笑い、意地の悪い一言を付け足した。
「単位まで落とすなよ」
「縁起でもないこと言わないでよ」
学生番号が近いので、実験科目や共同レポートではいつも寺島君と同じ班になる。わたしがドジするところを何度も見られているから、ちょっとした失敗をするだけで、最近はからかわれるようになってしまった。不本意である。
「じゃあ、これやるよ」
寺島君がバッグから取り出したのは、真っ赤な包装が目をひくウエハースチョコのお菓子だった。「きっと勝つ」という験を担がせ、受験シーズンまっただ中の現在、お菓子売り場などで目立っているあれである。
「あ、ありがと」
寺島君からの意外な貰いものにちょっと驚いた。お得パック用のお菓子を、彼はいつも持ち歩いているのか。しかしそれより何より、同じ物をくれた人が、ほぼ一年前にもいたのだ。
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