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受験番号や教室番号は覚えていた。しかし、確認をしなければ安心できなかったので、人でごった返す中、受験票とボードに書かれた数字を入念に照らし合わせていた。
確認を終えて人混みから抜け出そうとした時、あろうことか受験票が手から滑り落ちたのである。ちょうど人の切れ目に舞い落ちる受験票を、わたしは青ざめて見ていた。
もうすぐ試験が始まるという時に、受験票が落ちる。これほど縁起の悪いことがあるだろうか。
受験票がひらりと落ちていくのに気が付いた受験生はいたが、心なしか皆、縁起の悪いものを見てしまったと言いたげな顔をしていた。受験票は見知らぬ受験生の足元近くに落ちたのに、その彼は関わりを避けるようにそそくさと行ってしまった。
縁起の悪さと、ライバルとはいえ同じ受験生の冷たさに緊張で強ばっていた目頭がじんわり熱くなる。まさか試験前に泣くわけにはいかないので、ぐっとこらえて受験票に手を伸ばした。
その時、大きな手がわたしより先に受験票を拾い上げたのである。寒いのに、手袋をはめていなかったことを何故かよく覚えている。
「これ、君の?」
腰をかがめようとしていたわたしは、背筋を伸ばしてその人を見上げた。見上げないといけないほど、背の高い人だった。
○
「晶から見たら、だいたいの男は見上げることになると思うけど」
加弥子が話の腰をボッキリと折る。
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