必勝の条件

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「とにかく、背が高かったの!」  加弥子のどうでもいい突っ込みに、わたしはついとんかつに箸をぶすりと突き立てていた。 「行儀が悪い」  加弥子はすかさず指摘して、「それで?」と先を促す。 「それで、わたしがお礼を言った後に、その人が言ったのよ」  加弥子のペースになっていることに多少の不満を感じながらも、わたしは続きを話し出した。       ○ 「あ……ありがとうございます」  受験票を受け取り、わたしは頭を下げた。 「どういたしまして」  紺色のブレザーを着たその人は、にこりと笑って白い息を吐く。  誰も見向きもしない中、拾ってくれた人がいたのは嬉しかった。だがそれ以上に、わたしは受験票を落としたことにショックを受けていた。もしもこのまま合格まで取り逃してしまったら、きっと受験票を落としたせいだと落ち込むだろう。 「そうだ、これあげるよ」  わたしがどんよりと暗い雰囲気を振りまいていたからなのだろうか。紺色ブレザーの彼は、バッグのポケットからお菓子を取り出し、差し出したのだ。 「気休めかもしれないけど、験担ぎにはなるから」  それは、赤いパッケージのウエハースチョコだった。     
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