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必勝の条件
白くけむる息と共に差し出されたのは、赤い色の鮮やかなパッケージ。大きく無骨な手の中で、それはますます小さく見えた。
「気休めかもしれないけど、験担ぎにはなると思うから」
紺色のブレザーを着たその人は、あっという間に人混みの中へ紛れてしまった。
○
学生である限り、試験から逃れられないものだ。
否、自己責任において逃げるのも構わない、という人もいるだろう。けれど、逃げ方ばかり上手になった頃には、世間が自分から逃げてしまい、追いかけようにも遙か彼方へと去っている。
学生である限り、試験とはほどよいお付き合いを忍耐強く続けていかなければならないのである。
そんなわけで、わたしは構内の掲示板前にいた。理学部の掲示板なので、集まっている人の大半は男子学生だ。わたしの身長は平均を大きく下回るので、掲示板に群がる男子学生はまさに人の壁。ヒールのあるブーツを履いていても、見えるのは背中と後頭部ばかりだ。背伸びをしたところで、景色に変わりはなかった。
わたしは男子学生の後ろ姿を眺めに来たのではない。
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