においのゆくえ

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 その時は大して気に留めなかった。  一変したのは、それから間もなくだった。仕事から帰ってきて化粧を落とそうとした時、インターホンが鳴った。受話器を取ると、警察だと名乗った。古いアパートなのでカメラはついていない。わたしはドアののぞき穴から来訪者を確かめた。スーツ姿の男が二人、玄関前の狭いスペースにいた。てっきり制服姿の警官だと思ったから面食らった。  おずおずと扉を開けたわたしに、突然の訪問をわびて警察手帳を示す。ドラマみたい、なんてのんきな感想はすぐに吹き飛んだ。  階下の女性が、勤め先近くで刃物を持った男に襲われ、重傷を負ったのだという。幸い命に別状はなく、犯人は通りがかった人たちに取り押さえられたそうだ。  女性を襲ったのは、彼女の元・交際相手。警察――この場合は刑事か――が、見たことはありませんか、とその写真をわたしに見せた。  そこに写っていたのは、時々玄関先でたばこを吸っていた、あの男性だった。     
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