執筆戦隊カケルンジャー

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 七十五センチ巾のコタツ机を挟んだ対面に座す友人・加(か)弥(や)子(こ)が、彼女が持ち込んできたノートパソコンから視線を上げる。 「なんの更新?」 「『言の葉の木』の『最果て』が、今日もまた更新されてなかったのよ、加弥子」 『最果て』とは、『言の葉の木』で連載中の正式名称『世界の最果て、その淵を歩む』というラヴな長編ファンタジー小説である。  一年前にこの小説を発見した私は、吸引されるように『最果て』の虜となった。純水に溶解した塩化ナトリウムを取り出せない不可逆変化のように、私の心から『最果て』を除去するのは不可能だ。それくらいに囚われている。 「……八千代、あんたはまた懲りずに、レポートの提出間近になってもそんなことやってるわけ?」  二台のノートパソコンを飛び越して、加弥子の絶対温度二百七十三Kの視線が、私の目に突き刺さる。  辛いレポートの合間に、ささやかな息抜きをしてやる気を取り戻さんとあがいていた私に対して、なんという冷たさ。加弥子の心の絶対温度は、あと約二十K低く見積もっても構わないのではないだろうか。 「レポート三昧の毎日ですさんで荒れてやさぐれて乾いた心には、潤い成分が必要なのよ!」     
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