執筆戦隊カケルンジャー

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 今すぐ『最果て』の最新分を読めたと仮定した場合、私の心の潤沢度はたちどころに回復し、レポートへのやる気と活力を取り戻すことは必至。空気に触れた固体の水酸化ナトリウムが潮解するのと同様に必然である。 「人はそれを『現実逃避』というのよ」  加弥子のつっこみは、どうしていつでもいちいちもっともなのだろう。加弥子がキーボードを叩く音までもが、レポートを書け、とつっこんでいるように聞こえてくるという、摩訶不思議な現象さえ引き起こしている。  確かに、加弥子のつっこみは正確に私の現実逃避願望を撃ち抜いた。  しかし、それによって、砕け散った願望は脳内細胞全てに浸透し、レポート執筆に向けるべき情熱が浸食されるという、逆効果を引き起こしていた。浸食された情熱は、強酸と接触したアルミニウム箔のごとく、触れたそばから腐食してボロボロと形を失っていった。 「ああ、やる気が出ない」  一度損失した情熱をすぐさま回収しようにも、その回収率は遠く一割にも及ばない。  私はノートパソコンと協力関係を維持してレポート作成することよりも、床との親和性を高めることを優先した。バイト代を投入して先日購入したホットカーペットの性能を全身で確かめるのにも、今が適切な機会であると思われた。 「寝てる場合じゃないでしょう」 「文明の利器は素晴らしいね。この極寒の地に、局所的に南国を提供してくれている……」     
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