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お願い助けてパピーちゃん! 赤の他人編
誰かの携帯電話が鳴った。少し離れたところから、単調な電子音が聞こえる。
昼時の食堂は混んでいて、潮騒のようなざわめきに満ちている。今が昼休みとはいえ、ここは会社。どこの部署の誰か知らないけど、マナーモードにしてなかったのかなんて思いながらも、さほど気にとめず、同僚たちと他愛ない話をしていた。
多分、大多数の人も同じだっただろう。次の瞬間、度肝を抜かれたのも。
「呼ばれて飛び出てジャジャジャジャンゴゥ!」
広い食堂中に響き渡る野太い声。そして、誰かが椅子から転げ落ちたような音。
携帯電話の音が聞こえてきたのと同じ方向だった。
食堂中の視線が、突然で突拍子もない叫び声の発生地点に集中した。
「バカ、呼んでないよ! 会社で出てくるなよ! ていうか人前じゃ出てこない約束だろ!?」
数多の視線の中心にいて、片手にスマホを握り締めて焦った表情を浮かべているのは、若い男性社員だった。
見たことはないが、社員数が多いので、見たところで知らない人の方が多い。
ただ、彼の向かいの席に座っている人は、絶対に見たことがない――というより、確実に、我が社の一員ではなかった。
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