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髭がジャングルのように生い茂っているおっさんだった。我が社には制服があるが、熊を連想させるおっさんは、白いフリルのついた、可愛らしい淡いピンク色のメイド服を着ている。しかも、もじゃもじゃ髪の頭には、白いレースのヘッドドレス。
どこからどう見ても、格好だけはメイドさんだ。
彼らは、わたしの二つ隣のテーブルにいた。六人掛けのそれに五人で座っていて、そのうちの一人がメイド服を着た謎のおっさんだった。その傍らの床では、椅子から転げ落ちたような体勢で、呆然とおっさんを見上げている男性社員がいる。どうやら、おっさんが座っている席につい先程までいた人のようだ。
「ええー? だって、ご主人様のスマホの着信音が鳴ったら、パピーちゃんの出番じゃん? だから出てきたんじゃん? ご主人様、昼間はマナーモードにしてるから、呼んでくれるのはいっつも夜だけで、しかも、ご主人様一人の時にしか出てきちゃダメだぞこいつぅ、って言ってたのに、こんな昼間にこんな大勢の人がいる場所で呼んでくれたから、パピーちゃんばりはりきって出てきたんじゃん?」
パピーちゃんという名前らしいおっさんが、まるで女の子のような口調と仕草で、目の前の男性社員を見つめる。
ちなみに、パピーちゃんはメイドの格好をしてるが、顔はノーメーク。顔の下半分のほとんどは立派な髭に覆われていて、格闘技でもやっているのかと思うほどたくましい体付きだった。
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