舞踊ノ章

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舞踊ノ章

 「踊り」は不思議な行動である。 「ふんふんふーん」  目の前の床に座る妖狐は珍しく、五本全ての尻尾を規則正しく左右に振っている。 「なんだ、えらくご機嫌だな」 「そりゃあ、あんなことがあったら誰だって機嫌が良くなるよ」 「どんな事だ?」 「そ、それは秘密」  彼女の声音はひどく動揺していた。 「何企んでる」 「何も企んでないよ!」  我が家の自室で、僕は優雅にお風呂上がりのひと時をくつろごうとしていたが、今日はいつにも増して彼女がうるさい。 「あーあ、今にも踊り出したい気分だね」 「踊るなよ、下に響くから」  僕の部屋は二階、割と真剣な忠告である。 「でも、不思議だよね。どうして人間は嬉しいと踊りたくなるんだろう」 「お前、今踊りたくなったんだろ? その時の心理状態をきっちりチェックすればよかったんじゃないか」 「踊りたくなってない。人間チックに言っただけだよ」 「そうか。ま、踊るという行動自体は他の生物にもあるんじゃないか?」 「え、ほんと?」 「あの、魚が唇をつつきあったりする、あれ」 「あれは踊りじゃないでしょ!」 「じゃあ何が踊りなんだ?」 「そりゃあ、音楽に合わせて、ステップ踏んで……こんな感じ?」     
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