寂寥ノ章

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「どうして? 寂しくなる事は義務なの?」 「そのように錯覚することがあるってだけだ」 「ふーん。よくわからないんだけど、寂しくなりたいって事?」 「お、稲穂にしてはいい答えだ」 「えへへ」  彼女は嬉しそうに五本の尻尾を各々自由に振っている。僕はいつも、その五本が同じように、規則的に動いて欲しいと思っているが、それらはいつも不規則であった。 「泉は寂しくなりたいのに、寂しくならないんだ」 「もしかすれば、根本的には寂しさを求めているが、その本質を見失ってしまったのかもしれない」 「どうして?」 「長らく寂しくなっていないからじゃないか?」 「一見、恵まれているように聞こえるね」 「そう。俺は恵まれている。恵まれすぎているから、こんなワガママになったんだ」  風が吹き去り、彼女の金色の髪がスラスラと流された。 「私にできる事は……、生憎なさそうだね」 「あったとしても、妖には頼まないよ」 「人種差別反対!」 「お前は人間じゃないだろう?」  彼女は俯いて、僕の肩に寄りかかってきた。 「妖に魅入られた、貴方も一歩手前だよ?」 「一歩手前ならば、一歩踏み出さなければ良いだけだ。暑苦しいから離れてくれ」 「ちぇー。ケチ」     
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