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数学ノ章
「数学」とは、もっとも原始的な仮想遊戯なのかもしれない。
「では授業の最後に、このプリントを提出するように」
授業の終わり際、僕はプリントに取り組んでいた。
僕の中に入った一匹の女狐と共に。
「むむ。エックスの中に数字が入るんだよね?」
「ああ。エックスは抽象的な存在だからな」
「難しいねえ。全く、妖狐には難儀な問題だよ」
「人間にだって難儀な問題だ」
静かな教室で、僕たちは頭の中で会話をしていた。
「ねえ、泉」
「問題を解いている途中に喋り掛けるな」
「泉って数学は苦手なの?」
「ああ、大嫌いだ。数字の関係について考えるくらいなら、まだ祝福されたパンについて考えたほうがマシだ」
「それは美味しそうなパンだね」
「神様のお墨付きだからな」
「じゃあ、どうして数学が嫌いなの?」
彼女は興味を持ったようで、僕に質問を始める。
「いや、俺は数学について考えることは嫌いじゃない。数学をすることは大嫌いだがな」
「違いがわかんない」
「例えるなら、パンの存在や成り立ち考えることは好きだが、パンを食べることは苦手、みたいな感じか」
「パンって深いの?」
「パンは深くない。数学は深いと思うがな」
「パン派の人間に失礼ね」
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