群衆ノ章

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「ちなみに泉は?」 「怒るどころか、共感だよ」  渋滞している列はようやく一歩進んだ。 「でも、なんでみんな、こんなに並ぶんだろうね。地元の小さな神社に行けばいいものを」 「そしたら小さな神社が混んでしまうじゃないか」 「まあまあ。でも、この神社にこんなに人が多い理由もわからないわ」 「まあ、なんだ。人は他人がいるところに安心感を抱くんだ」 「ちなみに泉は?」 「吐き気がする」 「なるほど。人間っぽくないね」 「こんなに人がいれば、みんな安心しているんじゃないか?」 「どうして?」 「いや、この神社は効果があります、ってな」 「でもさ、人って本当に群れたがるよね。あれはどういう性質?」 「おそらく、生物学的欲求なんじゃないか?」 「それなら泉自身が説明できなくない?」 「俺は、もしかして人間をやめかけてるのか?」 「今さら何言ってんの。それに、生物学的には人間でしょうに」 「ああそうだった。それなら、みんな、自分よりも愚かな人間を探して一緒にいるんじゃないか?」 「見下すために誰かといるの?」 「そうそう」 「でも、それならあの、友情モノの映画とかはどうなるのさ」 「あれはありもしない幻想を書いているからウケるんだよ」     
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