寂寥ノ章

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 彼女も少しは考えて、この問いに答えを出したようだ。  僕は彼女の意見に面白さを感じたので、少し意見をする。 「その理論が完全に適用されるなら、寂しいなんて概念自体が存在しないだろうな」 「え、どうして?」 「もし、稲穂が寂しい理由が俺のせいだとするならば、俺は常に稲穂のそばにいなければ、お前のいう寂しさの悪から逃れられない、が、それと同時に稲穂だけじゃなく、俺も寂しさを感じて当然だろう? それなら俺を寂しくさせないためにお前も俺のそばにいなければならなくなる。そうすればどうだ」 「エンゲージリングを渡すような関係ね」 「恥ずかしいからって恐ろしく遠回しだな」 「でも確かに、完璧に世界中の互いがその義務を果たせば、寂しいという言葉が生まれないことになるわね」 「そう。寂しさという感情が存在する時点で、寂しさという悪に対する対策はそこまで完璧に履行されていない事がわかる」 「要するに、みんな寂しい感情を知ってるってことは、寂しくなった事があるって事?」 「若干、経験主義的な考えだが、それで間違いない」  彼女は耳をピクピクと動かしながら、僕の言葉を聞き、考えている。 「それなら、寂しいってことは、ミスから生じたものなの?」     
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