4人が本棚に入れています
本棚に追加
寂寥ノ章
「寂しい」と言う感情はひどく自分勝手なものである。
「そんなものなのかな?」
隣から、明るい声が響いてくる。
ふんわりとした黄金色の毛並みを持ち、頭の上には分かりやすく大きい耳をつけ、尻からは目立った尻尾がテンポ良く、左右に揺れている。
彼女は人間らしい姿に化けているが、本来は妖、本人曰く、九尾の狐というものを目指しているらしいが、まだ尾っぽは五つしかない。しかし、五つであっても、その一本一本の質は神々しく感じられるほどであった。それ故、そのふわふわを何度か、触ってやろうと試みたが、未だそれは達成されていない。
ちなみに、彼女の名前は稲穂と名付けた。名前の由来は至極簡単で、彼女の毛並みが風に揺られた稲穂を連想させたから。それだけ。
「稲穂は寂しいと思った事はあるか?」
「昔は思わなかったかなあ。気づけば寂しくなっていたって感じ?」
「それは最もらしいな。寂しさは頭が良くないと感じないから」
「つまり、私は頭が良い?」
「畜生以上、人間未満だ」
彼女は頭を捻らせて、僕の方を見る。
「どうして寂しくなるのかな? 泉は寂しくないの?」
「寂しくはない。けど、寂しくあらねばならないと思わされる事はある」
最初のコメントを投稿しよう!