音叉ガール

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「あのっ」  プラチナブロンドというのだろうか、ほとんど白に近い色の髪をしたその人に声をかけると薄い色のサングラス越しにこちらを見上げ、血の色をした唇で「こんにちは」と応じてきた。もしかしたら生身の人ではないかもしれない、という疑いを心の片隅に残し話しかけたわたしは少し安堵した。勇気を振り絞って次の言葉を送り出す。 「いっしょに走って下さい!」  女性は白銀の髪を揺らし、小さく噴き出した。声を立てないままひとしきり笑って笑いを納めると身振りでわたしに向かいに座るよう促した。 「どういうお申し出かな、音叉ガールさん」  彼女の視線が喫茶店の窓のすぐ外、駐車場に駐められた二台のオートバイの一方を示す。手に入れたばかりのわたしの二五〇ccだった。深緑色の燃料タンクには楽器メーカーがルーツであることを示す音叉のエンブレムが輝いていた。  ――わたしのことだ。  席に着いたわたしは向かい合った女性を見て心の中で頷く。  ――やっぱりこの人。  間違いなく初対面だった。けれど確信があった。  ――わたしの孤独。  二百七十日あまり探し続けた背中の主であるはずだった。
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