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追い越していったのは赤い色のオートバイだった。在校生たちにとって知られた存在であるらしい。テンションの高い彼女たちが揃って手を組んで何事かを祈り始める。そしてすぐに続くあきらめの溜息。
「ああ」
「また間に合わなかった」
流れ星の願掛けのようなものだろうか、と思う。オートバイは次のカーブの手前でわずかな時間ブレーキランプを燦めかせ次の一瞬で掻き消えた。在校生たちが「ああ」と嘆息を漏らしたのはその後だ。そして一度は小さくなった排気音が急激に野太さを増して遠ざかった。バスがその後を追いカーブを抜けてみても先に伸びる直線にはオートバイの姿はすでにない。
――今の、女の人だった。
わかりづらくはあったものの跨がっていた人物の背中から腰にかけてのラインは女性のもののように見えた。バスで近くに座った生徒が胸を押さえるようにして溜息を吐いている。胸を押さえた手が開かれるとそこには今しがた現れて消えていったオートバイのタンクに記されていたものと同じロゴのついたマスコットがあった。
――有名な人なのかな。
学校選びには関係のないことではあったけれど窓ガラスを震わせる排気音とともに現れ、瞬く間に消えたオートバイはわたしに何かを思い起こさせた。
――一人きりだった。
オートバイに一人しか乗っていなかった、という意味ではなく見送ったその背中が孤独に染まっているように思えたのだ。
――夕陽のせいかな。
辺りはすでに夕陽の影に入り、茜色の空に照らし出されたアスファルトは紫を帯び影も消えていた。黄昏時だ。
――あの夢に似てる、気がする。
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