広瀬勝巳という男

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 よっぽど下見に気が乗らなかったのか、最後に充電した日を覚えていなかった。顔面蒼白になる。やってしまった。 「…………本当だ、入らない」 「こっちが変更後だ」 「す、すみません……わざわざ。げ、コース三つも行くんですか!?」  頭を下げて謝りつつ書類を受け取ると、行こうとしていた定番のルートの他に、二つほど追加されたようだった。今日のこともあり、昨日は定時で上がったので知らなかった。 「今日と明日も費やしないと、一日じゃ疲れますよね、これ……」 「しかも、佐和先生はどこか抜けているから、俺にも一緒に行ってほしいって教頭に頭を下げられた」  その迷惑そうな一言を耳にし、申し訳ないという感情よりも、一人じゃないんだという喜びの方が勝ってしまった。単身で二日間も乗り込むのは心細いが、二人ならば気もまぎれる。わらにもすがる思いだった。 「……い、一緒に来てくれるんですか?」 「なんでそんなに嬉しそうなんだ。俺はせっかくの休みが二日間も丸つぶれで、最低最悪の気分なのに」  口調がずっと砕けていることはさて置き、口角の上がった唇ではばればれのようだ。 中庭にてキスをされてしまった事実は水に流せないが、単独で登山は心細かったのでホッとする。広瀬とは襲われないように距離を開けて歩けば問題ない。     
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