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そんなこんなでほとんど休まないまま実習当日を迎える。緊張した面持ちの学生二人は、予定していた朝八時よりもだいぶ早めに職員室を訪れていた。実習生用の控室も用意されていたはずだが、先に校内を探索するのに許可をもらいに来たらしい。
「夏野くんと、真山くんだっけ。僕は数学教諭の佐和です。僕が案内するから、ついてきて」
授業の開始時刻までは余裕があったので、構内案内を引き受けた。そこでついでに夢の相手かどうかを判断しようという魂胆だ。
指示された通りに二人は、環の後を大人しくついてくる。まるで親鳥を追う雛鳥のようだ。
大学四年生とはいえ、実習初日なのだから強張っていても当然だ。自分の時もこうだったなと、環はどこか懐かしく微笑む。
頭髪を薄茶に染め派手な装いをした夏野は、優男風の容姿でスーツという不釣り合いな出で立ちをしており、逆に真山は、運動神経抜群のスポーツマンタイプなのか、短髪にポロシャツという爽やかだった。服装は自由なので咎めるつもりはない。両極端な二人は女生徒に人気が出るだろうなと、同性である環ですら感じるほどだ。
その見解は正しかったようで、受け持つ予定のクラスや学食などを連れ立って歩いていると、たちまち生徒に囲まれた。
「僕の専攻は数学なんだ。確か夏野くんもそうだったよね」
「はい。佐和先生が俺の担当なんですよね?」
「うん。クラス担任も副担も持ってないから、僕になったんだけど……不満かな?」
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