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派手な外見はさて置き、生徒に気後れなく会話していたので安心していたが、夏野が環を気に入るとも限らない。滅多にないが、担当の先生を変更したいと初日から訴えられることもある。こればっかりは相性なので仕方がない。けれど。
「いえ、先生のような美人でよかったです!」
予想を覆す夏野の反応に、環は驚きを隠せなかった。同性から美人だと、面と向かって言われたことは今までになかったわけではない。しかし初対面では記憶にない。
「え……それってどういう意味……?」
「ああ、別に深い意味はないですよ。どうせ教わるなら美人がいいなって、俺が勝手に思ってただけなんで」
「そ、そう……」
男に対して美人はないだろ──と内心で突っ込みを入れつつ、悪びれもなく言いのけるので怒るに怒れなかった。隣を歩く真山は慣れているのか素知らぬ顔をしている。もしかしたら単なるお調子者で、普段からこうなのかも知れない。
「気にしないでください、佐和先生。夏野はいつもこうなんで」
困惑していることを察知したのか、隣を歩く真山がボソッと呟く。それを耳にし安心してもいいものか悩みながらも、実家で飼っているわんこのような夏野を邪険に扱えるわけもなく、薄ら笑いで誤魔化した。
「今日から三週間、よろしくお願いしますね、佐和先生!」
「よ、よろしく……」
幸先不安な初日となってしまった。
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