広瀬勝巳という男

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 教師七年目の新年度早々、佐和(さわ)(たまき)は遅刻しそうになっていた。今日は朝から職員会議が開かれるのだが、新学期ゆえに普段よりも早く七時半から行われる。けれど下駄箱でその時刻を迎えようとしていた。  それもこれも忌まわしき記憶のせいだ。見慣れているとはいえ、起きると疲労が蓄積している気がするので、時々寝坊してしまうことがある。そのため、勤める職場の徒歩十五分圏内で一人暮らしをしている。 「す、すみません……遅れました」  階段を一気に駆け上り、チャイムが鳴り終わると同時に職員室の扉を開け放った。着席していた同僚職員の視線が一気に集まる。  紺色のジャケットを手に引っ掛け、ワイシャツの袖を捲ったままの恰好で、居た堪れなさを感じながらも所定の位置へ向かった。  すると、環が使用している机の隣にもう一つ、何も置かれていない机が用意されていた。首を傾げながらも座ると、ゴホンと教頭が咳払いをする。 「──話しを戻しますが、先月から長期休暇に入った亀井先生に代わり、新たに一人加わります」  白髪交じりの教頭の隣にいたのは、やたら背の高い男だった。環は思わず凝視する。     
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