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あんなに探していたおばあさんに・・・・・・。
「私、連絡先を知ってます!」
意気込んで告げるがいなや、私はスマホを取り出しておばあさんにメールを打ったのだった。
あったよ、緑から菫に色が変わる大切な指輪が。
メールを終えた私に、結城さんが珍しく緊張を帯びた口調で切りだした。
「長谷川さん。ご苦労様でした・・・・・・。ところで。僕から長谷川さんにあげたいものがあるんです。今ここで渡せればいいんですが、あいにく堺東駅の百貨店の中にありまして。一緒に、買い物に行って頂けませんか?」
おばあさんが、おじいさんと一緒に私たちの居る場所へやって来たのは、約十五分後のことだった。
第二次世界大戦中に海軍の兵士としてミッドウェー島に配属させられた後、奇跡的に生還したという、おじいさんだ。
1942年の海戦を生き延びたおじいさんが、ゆっくりと近づいてくる・・・・・・。
おじいさんが出征前にあげた家宝の指輪が、おばあさんの指に戻る。美しい菫色の石に飾られ、おばあさんの指も美しかった。
それを見下ろしているのは、川を渡る南海電車だ。まるで、指輪の帰還を祝福するかのように、列車は爽快に走る。
それは何の変哲もない、ある冬の晴れた日の出来事だった。
終
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