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結城さんって、既婚者だなんてことはないわよね? あったらどうしよう。その辺りのことを聞きたいような気もするし、知りたくないような気もする。結城さんの同期である先輩たちに聞きたいけれど、どんな恐ろしい回答が返ってくるか解らない。
なにもかもを失う可能性が脳裏を掠めるので、なかなか前向きになれずにいる私だった。
「ちょっと指輪を探しに行きませんか? 探したいんでしょう?」
そんな私に、結城さんがさらりと告げる。
「ええ!?」
いきなり都合のいい方向に話が転がる予感を覚えて、私は期待で胸を膨らませた。まさか。まさか。まさか指輪って。
「前にここで、あるご婦人の指輪を犬が盗んで・・・・・・川に落ちたことがあったでしょう。あれは気の毒でしたからね・・・・・・。もう流されてるとは思いますが、あの時の岩場まで行きましょう」
「あ。はい。もちろん、もちろんです!!」
なんだ・・・・・・。って、あたりまえか。結城さんが私に指輪をくれるはずがない。
あらぬ期待を裏切られた落胆はあるものの、おばあさんの指輪を探したいという気持ちの方が勿論、強い。私は二つ返事で頷いた。結城さんは目を細めて私を見ていた。
徐々に速度を増す川の中流まで歩く。石段を降りて目的地の岩場に辿りついたのは、正午頃のことだった。
丸みを帯びた石が、あちこちに点在する。私は石に、躓かないようにして歩く。
弾けるような水音がする。
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