3/5
10人が本棚に入れています
本棚に追加
/5ページ
 結城さんって、既婚者だなんてことはないわよね? あったらどうしよう。その辺りのことを聞きたいような気もするし、知りたくないような気もする。結城さんの同期である先輩たちに聞きたいけれど、どんな恐ろしい回答が返ってくるか解らない。  なにもかもを失う可能性が脳裏を掠めるので、なかなか前向きになれずにいる私だった。 「ちょっと指輪を探しに行きませんか? 探したいんでしょう?」  そんな私に、結城さんがさらりと告げる。 「ええ!?」  いきなり都合のいい方向に話が転がる予感を覚えて、私は期待で胸を膨らませた。まさか。まさか。まさか指輪って。 「前にここで、あるご婦人の指輪を犬が盗んで・・・・・・川に落ちたことがあったでしょう。あれは気の毒でしたからね・・・・・・。もう流されてるとは思いますが、あの時の岩場まで行きましょう」 「あ。はい。もちろん、もちろんです!!」  なんだ・・・・・・。って、あたりまえか。結城さんが私に指輪をくれるはずがない。  あらぬ期待を裏切られた落胆はあるものの、おばあさんの指輪を探したいという気持ちの方が勿論、強い。私は二つ返事で頷いた。結城さんは目を細めて私を見ていた。  徐々に速度を増す川の中流まで歩く。石段を降りて目的地の岩場に辿りついたのは、正午頃のことだった。  丸みを帯びた石が、あちこちに点在する。私は石に、躓かないようにして歩く。  弾けるような水音がする。     
/5ページ

最初のコメントを投稿しよう!