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それから、行き交う列車の轟音が聞こえてくる。ちょうど大和川にかかる鉄橋の上で、なんば行きの準急行と、極楽橋行きの特急とが擦れ違っている。大阪が誇るミナミの歓楽街と、真言密教の総本山である緑豊かな高野山。そんな対照的な場所へ向かう列車たちが、まるでここで運命的に結ばれているかのような、不思議な気分になる。
その時、岩場の隙間に緑色に輝くものが見えた。
緑色に光る、石?
とても綺麗だけど、私たちが探しているのは菫色の指輪だから・・・・・・。
だが、結城さんが声を上げた。
「長谷川さん、あれじゃありませんか? 探している指輪は」
「ええ!?」
結城さんが川縁まで歩いて指輪を拾おうとする。彼は眺めているだけで凍えそうな冬の川に手を入れて、緑色に輝く石を掬い取る。
しかし私は眉を寄せ、叫ばずにいられなかった。
「結城さん、違います! 探してる指輪は菫色なんです! だから、それじゃないんです!」
冬の大和川に結城さんが呑まれてしまいそうな気がしたので、私は必死で彼を呼び戻そうとした。
「結城さん!」
結城さんは水から手を引き、その緑色の石を私に見せた。それは、指輪だった。
だけど・・・・・・。
「長谷川さん。これは華青石といいます。緑色に見えますが、90度角度を変えると、菫色にも見える石なんです。あのおばあさんに渡せればいいんですが・・・・・・」
結城さんが石の角度を変えると、緑色の光は、すぐに鮮やかで神秘的な菫色に変わったのだった。
あの、忘れられないほど美しい菫色だ。
間違いない!
早く、これを渡してあげたい!!
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