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「……あっそう」
ナイフとフォークを置くと、一気にビールの入ったグラスを空にした。
「お疲れ様でした」
そう言うと有紗は席を立つ。
「ちょっ! 帰るの!?」
「帰る。お先」
伝票を掴む。
「待ってって」
ガコン!
慌てて立ち上がった淳之介がどこか打ったのか「い……!!」とだけ叫んだ声が聞こえた。
聞こえたけれども思いっきりその「い」も聞き流す。
自分の注文分だけをきっちり払って外に出た。
カランコロンという牧歌的な音を置き去りに。
有紗が足を止め携帯を取り出した。
〈私でよかったら、これからお願いします〉
携帯で言うくらいなら、その場ですぐに山縣くんに言ったらよかった!
私を躊躇させたものは、きっと道ばたの小石程度のものだったのだろう。
蟻んこじゃあるまいし、迂回なんてする必要なかったんだ。
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