春一番

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「みんな『さたじゅん』って呼んでるけど思い出せない……?」    さたじゅん!      この響きには何か覚えているような……。  教卓の上で熱唱しているところを、先生のハリセンで尻をぶたれた少年の姿がちらついた。 「あっ!」  いっつもうるさく騒いでた人だ。 「思い出してくれた?」 「はい、思い出しました。……お久しぶりです。高橋です。…………それじゃあ明日はこちらの資料を」 「ちょっちょっちょっ! そんなあっさり!?」    ぼんやりとこの声のトーンも思い出す。  何年経っても人って変わらなかったりするんだなあ。 「そうだ! せっかくだし、再会を祝して今から飯食いにいかない!?」  ええーー!?     ……せっかくだけど、再会を祝すほどの関係性では無いでしょ?  とうとう有紗の営業スマイルが均衡を崩す。  資料を入れた封筒を持った、そのままの形で固まる。 「……じゃあ、『打ち合わせ』も兼ねて! ね?」  淳之介が満面の笑みで攻めてくる。   「……ですね」 『打ち合わせ』という文言が、有紗の防御壁を突破したのは致し方なかった。
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