■魔女の秘薬と手頃《チープ》な対価

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「いらっしゃいませ」  ほどよい光に照らされた店内に入ると、白のシャツにチョッキを合わせたバーテンダー風の少年が出迎えてくれた。  年の頃はまだ十代前半くらいなのに、店の雑務をひとりでこなしているせいかたたえる微笑は大人びている。  あるいは人造人間(ホムンクルス)という特異な生まれが彼をそうせしめているのかも。 「こんばんは、ショーンくん」  端正な顔立ちに見取れながらも笑顔を返すと、姿のない店主の所在をたずねる。 「ドロシーは?」 「いつも通りですよ」  ヤレヤレと言いたげな少年に「やっぱり」と苦笑して答える。  ココの店主はいわゆる引きこもり体質というやつで、ショーンくんに仕事を押しつけて自室で気ままにゴロゴロしているのだ。 「いま呼んできますから、そちらでお待ちを」  部屋の片隅に用意された雑談用のテーブルでひとり店主の到着を待つ。  店内は蛍光灯に似た明かりで照らされている。  いくつもある大きな棚には薬やその材料となるものがズラリと陳列されていた。  ソレらを不用意に変質させないため、わざわざ魔法で熱量の少ない光を作っているのだとか。  棚に並べられた薬は魔女が作ったもので、普通ではありえない効果を秘めている。  副作用もあるが、現代日本ではとうてい手に入らないような効果があったりもする。  頭から耳が生えるだの、死者の声が聞こえる気分になるだのという効果に需要があるのかは不明だけれど……。 「やあ、待たせたね。今週もよろしく」  店主であり秘薬の制作者であるドロシーが、けだるげな様子で現れた。  実年齢は不明だが、見た目だけなら二十代前半のブロンド碧眼の美女である。  波打つブロンドは無造作に伸ばされ、モチモチの白いお肌にもタプタプした余裕がうかがえる。  ひもで吊っただけの緑のキャミの着こなしはだらしなく、不埒なほどにたわわに実った乳がのぞけていた。  見ようによってはセクシーなのだけれど、どちらかといえばだらしなさの方が勝っているように思う。  そんな姿で客前に出てくるのは正直どうかと思うが、願いさえ叶えてくれれば客としては文句はない。  他人の乳を妬んだところで、それで自分の乳が大きくなるわけでもないし……。 「それじゃ早速、対価を確認させてちょーだい」  私はうなずくとレジ袋からソレを取り出しテーブルに並べた。
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