結婚式の狭間に馨る

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「……あの……此処、玄関……」 暗闇に目が慣れて来て、前の人の顔も紅潮しているのが見て取れ、胸を詰まらせた。 僅かに逡巡するような仕草を見せたかと思うと、唐突に身体が宙に浮く。 「きゃあ!?」 ふわふわ揺れる感覚が怖くて咄嗟に首にしがみつき、生まれて初めてのお姫様抱っこをされている状況を把握した。 しかしベッドに下ろす所作はゆっくりと丁寧で、壊れ物を扱うかの如く大事にされていると思うと、胸ときめかせた。 スプリングを軋ませて頭上に跨った人は、チャペルの前で見せた愛おしげな瞳で、わたしを見下ろしている。 「……今日……近藤さんの結婚式なのに、茉莉さんが綺麗だから気になって仕方なかった……」 髪を撫でた指先と、か細く呟いた掠れた声に射抜かれて、大きく脈打っている鼓動が益々高鳴ってしまった。
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