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身体を包む心地良い暖かさに、夢と現の狭間を揺れているような感覚で瞼を閉じていた。
鼻先を擽った香りに呼び戻され、同時にベッドの中で引き締まった腕に抱かれている状況を認識出来る程には、頭が冴えて来た。
「……ジャスミンの香り……」
呟くと頭上から微かに聞こえていた寝息が途絶えて、半分寝惚けたような掠れた声が届いた。
「……この香り、俺も忘れらんなくて……。茉莉さんを忘れたくなくて……王子様なんてそぐわない呼ばれ方してるだけで、ただの女々しい、かっこ悪い男なんだよ……」
「ううん、嬉しい……」
小さく返すと、覗き込むように顔を間近に寄せる。
「ねぇ、もう居なくならないでよ」
見上げると何時になく可愛らしい台詞を吐きながら唇を尖らせているので、口元が緩んでしまった。
「うん。ずっと居る」
腕をきゅっと掴んで目を合わせると見る間に頬を染めて、その面持ちを隠すように片手で頭を抱えた。
「……ズルいな~~……」
何が? と頭に疑問を浮かべながら、ズルいと思うことはあっても思われる日が来るなんて考えてもみなかった。
身体の前を交差している腕に再度力が篭められて、わたしの髪に顔を埋めた。
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